これもまた日笠。そしてこれぞ日笠。声優、日笠陽子さんについて。

 ここ数年に最も驚くべき進化を見せている声優はと問われたら、僕はまず最初に「日笠陽子」さんを挙げる。
「縦軸への成長と同時に、斜め上やあらぬ方に向かっても進化し続けている」
「現状を経験で磨き上げるだけではなく、新しい可能性を貪欲に取り込み続けている」
 とでも言えばよいのか、こちらの想像通りのもの、想像の斜め上のもの、全く新しいと感じさせるもの、様々すぎる役柄や演技をいくつも見せてくれている。そんな役者さんだ。

 ここ数年からいくつかの作品、キャラクターをピックアップして説明してこうと思う。
 まずは話の土台として、素直な「縦軸」の成長をいくつか。

・戦姫絶唱シンフォギア マリア・カデンツァヴナ・イヴ
・ヤマノススメ かえで
 このあたりは初期に鮮烈な印象を残した、
・けいおん! 秋山澪
 からの流れに通じるところも多い、
「メインキャラの中でちょっと大人っぽい雰囲気を醸し出すポジション」
 といったところ。エンドクレジット等で確認した際も、多くの方が違和感なく「うん、やっぱり日笠さん」と頷くであろう役柄だ。

 近年それに次いで「うん、やっぱり日笠さん」的な役柄になっていると思われるのは、
「メインキャラを見守る役割の先輩ポジション」
その代表は言うまでもなく、
・NEW GAME! 八神コウ
 だ。
 このポジションの意味や意義については、日笠さんご自身がブログで語った内容が核心的すぎるので、改行と句読点だけ整えてそれを引用させていただく。

日笠陽子のひよっ子記「にゅーげーむのみんな」
http://blog.livedoor.jp/hiyonikki/archives/2102413.html
「私はきらら作品に関わらせてもらうのは二回目。
 1度目は、私は、二回目の青春と呼んでいました。部活みたいに必死で熱くて、一生懸命で精一杯の、青春。
 そして今回のニューゲームを三回目の青春と呼んでいます。今度は、そんな精一杯の皆を支えたり見守っている立場。
 時の流れを感じますよね。
 それを感じる事が出来るというのは、実はとても有難く、幸せな事で。あ、階段のぼってたんだ、と気付く瞬間でもありました」

 そして近年特に多く演じているように思える現在のど真ん中の縦軸として、重複もあるが、
・戦姫絶唱シンフォギア マリア・カデンツァヴナ・イヴ
・魔法少女育成計画 ルーラ
・ベルセルク ファルネーゼ
・純潔のマリア アルテミス
・リトルウィッチアカデミア ダイアナ・キャベンディッシュ
・Re:CREATORS アリステリア・フェブラリィ
 といったキャラクターも挙げておきたい。
 白でも黒でも灰色でもなく、白と黒が白と黒のまま混然としていたり、彼女たち自身の中でぶつかり合っていたり、どちらかに偏りすぎてバランスを失っていたりといった、危うさのあるキャラクターたちということで、近しい要素があると僕は感じている。
 こういったキャラクターにおいては、日笠さん元からの縦軸による白の表現、そして経験を経て手にしたのであろう黒の深み、その両方、そのコントラストが特に発揮されているように思える。
なお、白が元からの縦軸であるとすれば黒は既存の流れの縦軸ではないともいえるが、白と黒は対になるものであり、遠いようで近い気もする。ということで、そこは極端に斜め上な要素ではない、ということにしておいてほしい。

 さて、ここから述べる部分がこの文章の本題、「斜め上」「新しい可能性に貪欲」の部分。

 それを感じさせた筆頭は、
・フレームアームズ・ガール 源内あお
 だ。
 この作品のヒロインで、公式サイトから引用させてもらうと、
「ごくごく普通の高校1年生の女の子」
 というキャラクター。
 作品を見逃していてその説明だけを聞いたら、「何が斜め上で何が新しいの?『けいおん!』のときと何が違うの?」となるのではないかと思う。

 だが、この作品このキャラクターにおける日笠さんの演技は、本当に驚かされるほどのものだった。
 この作品の他の主要キャスト、フレームアームズ・ガールたちのほとんどは、ここ数年にデビューしたばかりの新人。十歳ほど下の世代だ。その中で日笠陽子は、その中に全く無理なく自然に溶け込む「ごくごく普通の高校1年生の女の子」を演じてみせた。僕など第一話を見終えて「ヒロインの声、誰だったんだろう?ヒロインも新人さんかな?」とクレジットを確認して、「日笠さんかよ!……やられた」と敗北感にまみれたほどだ。

 デビューから十年、第一線で活躍し続けた。その経験をもってすれば、黒の深みや白の揺らぎを表現することは、容易いということはなくても理解しやすいものと思える。それは斜めではなく真上への成長だ。
 しかしここに来ての「真っ白」とは。経験を重ねた上でその経験を感じさせない無垢の白を表現する。本当にまだ経験を重ねていない新人たちの真っ白に見事に溶け込んでみせる。これをできる役者さんってどれほどいるものなのだろうか。
 本当に驚かされた。

 次にこちらもやはり驚かされたのが、
・亜人ちゃんは語りたい 佐藤早紀絵
 この作品で日笠さんは新人教師の佐藤早紀絵として女子高生の例えば小鳥遊ひかり(本渡楓さん)とハイテンションな会話を繰り広げるが、その際のテンポ感やあえて普通ではないアクセントの置き方などは、ヒロインであるひかり、本渡楓さんの演技に合わせられていることが多いように思える。

 小澤亜李さんや桑原由気さんのラジオでのトークもこの感じに近い。なのでこのテンポ感やアクセント感はその世代にとっては、現実にはありえない演技ではなく、演技として少し大げさにはするとしても土台はナチュラル、なのかもしれない。
 ならば今の作品にはそれがハマる、そう判断される場合も少なからずだろう。そしてそう判断された場合、あるいはご自身がそう判断した場合、今の日笠さんはそれに対応し、そちらに合わせた演技までもできる。「亜人ちゃん」ほどそこが顕著なわけではないが、「フレームアームズ・ガール」でのあの溶け込みっぷりも、それがあってこそなのかもしれない。

 日笠さんがそのテンポやアクセントの感覚を、その世代との共演から自然と身に付けたのか、それとも意識的に取り入れたのかはわからない。
 しかしどちらにせよ日笠陽子は、核となる縦軸、これまでの日笠陽子らしさだけにとらわれることなく、先輩たちから学ぶだけでもなく、後輩たちからさえも新たなものを学び取り、成長し続けている。そう感じさせるその在り方には感動さえ覚えたりする。

 最後にもう一グループ。このところの日笠さんは「母親」役もちょくちょく担当している。
・甘々と稲妻 ミキオの母
・天使の3P! 尾城小百合
・スロウスタート 一之瀬葉月
・アホガール 花畑よしえ
 のだが……
 他は「経験と年齢を重ねて母親役もいけるようになった」という縦軸の話なのだろうが、花畑よしえは何というか、母親役とかそういう括りに収められる何かではない。強いて言えば、
・Re:ゼロから始める異世界生活 女狂人
 とは近いジャンルかもだが。

 しかしこれもまた日笠。そしてこれぞ日笠。

 そのように様々な角度、時には全くの死角から僕に衝撃を与え続けてくる、日笠陽子さん。
 僕としては注目していたい声優さんだが、別に注目していなくとも勝手に飛び込んでくると思うので、その際にはみなさんにも「ぐぬぬ。またも日笠」という、嬉しい敗北感を味わってほしいなと思う。