あとがき

 本編の主人公である「たかはしあつし」は最初、口数が極端に少なく、その表情にも内面をほとんど見せない人物として、筆者の前に現れた。それが美形であれば絵にもなるが、そうでもなかった。もちろん、彼を主役にしようなんてまったく思わなかった。
 そんな彼を主役に抜擢したのは、あるきっかけからだった。その理由は、詳しくは書かないでおく。高いところに吊るされたバナナと一本の棒が関係するとだけお伝えしておこう。
 僕が彼を主役にしなければ誰も彼を主役にはしないし、彼も主役になろうとはしないだろう。そう思ったことは確かだ。いくら巧みに棒を使いこなそうとも、脇役のままでは手に入らないものがあるというのに。
 だから僕は、彼を主役にした。善意だったのか興味だったのか、理由の本当のところは僕にもわからない。
 そして彼は、物語の渦の中心に飛び込み、見事なまでに溺れ、そして中心から弾き出された。
 彼を主役にしたのは、間違いだったのだろう。彼は彼の人生の主役ではなく、彼女たちの人生の脇役だったのだ。
 それでも彼の日々は続き、僕は彼を書き続けている。それがこの物語だ。いつかスピンオフで主役を勝ち取る。そんな気配は微塵もなく続いていく、ただの物語だ。
 最後に付け加えておこう。彼はいまや、コインと自動販売機も使いこなすことができる。

[改定:2018年01月16日]